ピートTR

ピートTR

ピート2.JPG聞き手=須川善行

◯伝統楽器をめぐって

――ピートさんの音楽的な背景を教えてください。音楽に触れたきっかけは?

 最初はクラシック・ギターから始めました。父の友達にギタリストがいて、ぼくにも勉強させたがったんです。自分ではまさか仕事にするとは思ってもいませんでした。演奏をしているうちにいろんな音楽家と知り合って、その中でバンドを組んだりして、今のような活動につながったわけです。

――いまのような演奏になったのは?

 今のような演奏になったのはここ1、2年です。それまでいろんな音を作ったり、いろんな方面の音楽をやってきて、ケーンとかピン(三弦の弦楽器)を取り入れたのは最近のことで、今でも自分で試しているところです。今はいろんな音楽との融合を挑戦している段階で、サイケデリックなかたちは最近になってできあがってきたものです。いろいろなプロジェクトがありますが、イサーンの楽器を取り入れているのもそのひとつです。なぜかというと、おじいちゃんとおばあちゃんがその地方の出身で、ぼくにもその血が流れているからです。モーラムは物語を語っていく音楽ですが、自分の音楽の中にもそれを取り入れて、モーラムと今までやってきた音楽の融合を試みています。特に、エレクトロニックなものを取り入れたぼくの音楽は今まで誰もやってきていないものですから、新しいものになるでしょう。モーラムは子供のときに聴いたことはあっても、自分で演奏した経験はないので、それをやってみたいと思いました。

――使っていた楽器について教えてください。

 タイのイサーン(東北)地方の楽器です。実際はラオスから来ている様相(外見的な特徴?)も強いです。もともとはモーラムを演奏するために作られた楽器です。

――両方とも?

 はい。

――ケーンとはどんな楽器ですか。

 細かい竹を組み合わせ、口で吹く楽器です。構造的にはハーモニカに近く、息を吹くことによって音が出ます。一つの竹に一つの穴があり、その穴を塞ぐことで違う音が出るという仕組みです。

――先ほど、ピンやケーンを演奏するようになったのは最近だとおっしゃいましたね。

 自分で演奏しはじめたのはつい最近です。前から伝統的な楽器に挑戦してみたいとは思っていました。今あるモーラムも、バンドやグループのかたちをとっています。モーラムの有名なバンドではパラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンドなどがありますが、その人たちは、伝統的なものを受け継いでいるプロフェッショナルな人たちですから、かなうとも思っていませんし、対抗するつもりもありません。ぼくは自分の音楽とミックスしようと思って始めたわけです。こういう音楽も支持してくれる人がいるんじゃないかと思ってやっています。

◯モーラムを生き直させる

――モーラムについて、もう少し詳しく教えてください。

 父から聞いた話では、イサーン地方にもともとあった音楽で、語りを音楽の中に取り入れたものだそうです。イサーン地方はラオスと隣接していて、ラオスからきたとも言われています。おそらくラオスとイサンのものが融合して今のものになっているのでしょう。モーラムの中で使う楽器は、僕は中国から発生したのではないかと思っています。日本にも笙がありますが、中国で発生したものがそれぞれの国でそれぞれのかたちに発展したのではないでしょうか。

――ピートさんは若い世代ですから、ヒップホップやエレクトロニカなども聴いていると思いますが、若い世代の人にとっては、モーラムは古くさく感じるものなのでは?

 自分と同じ若い世代がどう思っているかはよくわかりません。ぼくはエレクトロニック・ミュージックや現代音楽が好きですが、古典的な音楽も研究していかなくてはいけないと思っています、タイ独自の音楽ですから。たとえばキューバやアフリカなど、その土地独自の音楽はいろいろありますよね。そうしたワールド・ミュージックは残していかなくてはいけないと思っています。タイには世界の音楽をミックスして演奏するグループはいますが、タイの音楽を使っている人はいない。ぼくはタイの古典的な音楽と自分の音楽を融合させたいと思っています。生まれたのもバンコクですしね。

――ピートさんは、タイではどんなところで演奏していますか。

 バンコクで自分がやっているプロジェクトはふたつあります。ひとつはソロ活動、もうひとつは中学時代からの同級生の友達と進めている活動です。メインは彼とやっている方ですが、演奏する機会があれば、いろんな人が集まってきて、一緒にやったりもします。場所はいろいろで、小さなライヴハウスやフェスティバルで演奏することもありますね。演奏するときには太鼓を担当している別の人がきてくれたり、そのときにやりたいことに合わせて、いろいろです。

――ソロではライヴハウスやギャラリーなどで演奏することが多いのでしょうか。

 ソロでは演奏することは少ないのですが、よく演奏しているのはパラダイスバンコクの所属しているレコード会社の経営しているスタジオ・ラム(ラムとは語るという意味)です。バーのようになっていて、演奏を聴いたりできるような場所です。

◯いろいろな形式が混じり合う

――アジアン・ミーティング・フェスティバルで演奏した感想は。

 今回演奏してみて、日本人の観客が興味をもって観てくださって感動しています。CDも自分では関係者に配る用に30枚しか持ってこなかったのですが、売り切れてしまって、こういう音楽に対する関心の高さにびっくりしています。

――これまでに国籍もジャンルも違うミュージシャンと一緒に演奏する機会はありましたか。

 一回だけあります。バンコクで、大友さんがいるFENというバンドでチーワイさんたちと一緒に演奏したことがあります。大友さんたちとそのときに知り合って、今回も一緒にできてよかったです。

――演奏してみてどうでしたか。

 みんながそれぞれ違うかたちの音楽を持っていて、とても興奮しました。ナタリーさんは中国の箏を電気と組み合わせて、トラディショナルな音楽をまったく違う音にしていましたし、インドネシアから来たクリスナのノイズ・ミュージックは、他の人のエレクトロニック・ミュージックや伝統的な音楽と混ざり合って、まったく新しいものができていました。DJ sniffさんは、ターンテーブルを使って音を出していましたね。いろんな形式が混ざり合うことで、今までになかった自分にも興味深いものができて、わくわくしました。

――ピートさんは、クリスナのようなノイズ・ミュージックを演奏されることはありますか。

 クリスナさんのようなノイズ・ミュージックや日本のメルツバウを探して聴いたことはあります。自分自身の演奏の中で彼らの演奏に近い音を取り入れることでノイズ・ミュージックに近いものになることはあっても、それらを基本にして演奏することはありません。

◯いろいろな要素を語りの中に

――ジャンルを越えて何かをするというよりも、それぞれのジャンルで作品を作っていくことに興味があるということでしょうか。

 それぞれのジャンルの音楽をやるというのではなく、モーラムも現代音楽もエレクトロニカもそれぞれにいいところがあるので、それを融合させて新しい音楽を作りたいです。特に、語りを全面に出していきたいですね。たとえば、この映画がすごくよかったから、それをそのまま伝えるのではなく、この映画とこの映画それぞれによいところがあるので、いろんな要素を取り入れて語りの中に使っていきたいと思っています。

――その語りとは、自分自身の考えた物語ということですか、タイに伝わる物語のことですか。

 自分が語りの中に取り入れたいのは、自分の日常生活や家族のプロフィールや生い立ちなどのような身近なことで、それらを組み合わせたものをやっていきたいと思っています。今のバンコクの日常や、それをコントのように表現したものを取り入れてもいいし、ファンタジーにしてもいいし、自分がイサーンに行ってどう感じたか、外国の人に出会ってどう思ったか、ともかく自分の身の回りのことを語っていきたいですね。

――去年AMFで演奏したユイさんも同じようなことを語っていました。ユイさんのことはご存知ですか?

 もちろんです。大友さんがバンコクにいらっしゃったときに知り合いました。

――次に考えているプロジェクトはありますか。

 ララ(l _ / \ - l _ / \)というバンドをやっています。

――どんなバンドですか?

 バイクさんとぼくが中心ですが、彼も含めていろんなバンドの人が集まってやっているバンドです。基本はポップスなのですが、エレクトロニックな部分やサイケデリックなところもあるし、今までにないアヴァンギャルドなことにも挑戦していきたいと思っています。ミニアルバムを一枚出していて、新しいアルバムを制作中です。プレーン・パン・ペレスというバンドもやっていて、今回もってきたのはそのバンドのアルバムです。そちらでもこれからフルアルバムを出す予定で、その中でぜひ語りの部分を入れたいと思っています。いま短い物語を10編考えていて、それに音楽を入れて、将来的には英語や日本語に翻訳していきたいと思っています。

――それは楽しみですね! どうもありがとうございました。