フィオナ・リー
質問作成・翻訳=須川善行
Q1
フィオナさんがステージで使っている機材について教えてください。ガラスのボウルや磁石、コイル、電球、白いリングなどについて......。
A1
私は電磁場の起こす現象を自分の演奏に利用しています。モジュラー・シンセサイザーで作った可聴周波数のサイン波を環状コイルに伝導すると、磁石のボールがガラスのボウルの中で回りだします。音波の信号がコイルに通されて電磁場を生み出すのです。音波の周波数は8~50ヘルツくらいまで変化して、電磁場を生み出し、磁石のボールをガラスのボウルの中で回し、そのスピードも変化させます。周波数が高くなるほど、磁石の回転速度も速くなります。また、私はガラスのボウルと水も使っています。ボウルと水の位置を操作して、打楽器的な面白い音を生み出すのです。
電球型蛍光灯については、私は「サウンドマシーンズ」というモジュラー・シンセサイザー・ブランドの「SY1 シネスシア」というモジュールを使っています。このモジュールは、私のモジュール・セットの別のモジュールから出るCV(制御電圧)でDMXライトシステムをコントロールするものです。モジュラー・シンセサイザーから電球の電圧をコントロールすることで、電球型蛍光灯が通常の目的とする明暗とは異なる点滅の効果が得られます。異なる種類の電子部品で設計・製作された電球から生まれる電磁場は、さまざまなスペクトラムに広がります。私は、誘導コイルを使って電球の電磁波をミキサーに伝導し、その信号を増幅するのです!
白いリングは、単なるアンテナです。それにはケーブルが巻いてあります。私はパフォーマンス会場でも必要な電磁波が飛ばせる機材を探していました。それに一番近くて、一番面白かった機材が、このツアーで使っているミキサーでした。そこから出る電磁音がパフォーマンスにぴったりであることがわかったのです。それで私はその音をつかまえるためにこの白いリングを使っています。ミキサーと白いリングの間の位置と距離を操作することで、その音をつかまえるのです。この白いリングは、京都の網野で行ったサイトスペシフィックなサウンド・インスタレーションの原型にあたります。網野のカフェ(カナブン)にインスパイアされたドリーム・キャッチャーによく似ています。そのカフェではドリーム・キャッチャーを売っているのです!
Q2
フィオナさんの子供時代からの音楽のキャリアを教えてください。
A2
私は4歳から14歳になる頃までピアノを習っていました。練習も多かったし、ピアノの先生からのプレッシャーも大きかったので、私にとってはきつくて悲しい体験でした。その時期には、楽譜なしでピアノを弾いて自分で自由に表現することに懸命でした。それは私が音楽と音を楽しむのにもっとも大切な瞬間であり、同時に子供時代の私自身にとってもっとも大切な瞬間になりました。しかし、私に練習を押しつけるピアノの先生からのプレッシャーに耐えきれなくなって、結局は止めてしまいました! 悲しいことですが、自分について多くのことを学びました。14歳の頃から26歳になるまで、私は他の楽器を学ぶことはありませんでした。
3年前に、ちょうど演奏をしていたジョン・リーに出会い、彼からフレームドラムを習いました。彼は音楽、音、リズムの先生としても素晴らしいのですが、それだけではなく、いい聞き手でもありました。私は彼の演奏とフレームドラムの音色に感銘を受けました。フレームドラムから生まれる倍音は、私にとって真に驚くべき音の響きの幅をもっていました。彼に喉歌を教わるころには、私の倍音を聞き取る能力はかつてなく高まっていました。日常生活の中でそうした倍音を簡単に聞き取ることができるようになっていました。
電球を使った演奏を始め、サウンド・インスタレーションと演奏に集中するようになると、サウンド・アーティストと呼ばれる人たちからインスピレーションを受けるようになりました。私は身の回りのものを使って演奏のための音を作ろうとしました。電磁場に集中することで、音に対する好奇心はかつてなく高まりました。
最近では、私は演奏にエレクトロニクスを、また空間に関係性を持ちこもうとしています。異なる会場と空間でサウンド・インスタレーションと演奏を交わらせるために、私は予想できない音や信号、その他のものを使って試行錯誤を続けていくつもりです。
Q3
フィオナさんの創作やパフォーマンスに影響を与えた人について教えてください。
A3
【サウンド・アーティスト&ミュージシャン】
1 鈴木昭男(日本)[彼のパフォーマンスと芸術家としての人生すべてからインスパイアされています]
2 フェリックス・ヘス Felix Hess(オランダ)[物理学者でありサウンド・アーティストで、「それは空中にある」というインスタレーションにインスパイアされました]
3 梅田哲也(日本)[空間感覚とパフォーマンスだけでなく、ありふれたものに美を見出そうとか、最初見たときには取るにたりないディテールを真面目にとらえようという欲望に端を発するインスタレーションにインスパイアされました]
4 ライアン・ジョーダン Ryan Jordan(ロンドン)[水晶を使ったノイズと電子音楽]
5 ジョン・リー John Lee(香港)[私のフレームドラムと喉歌の先生]
6 セドリック・マリデ Cedric Maridet(香港)[大学でサウンド・アートを教えてくれる先生]
7 ヤニック・ドービ Cedric Maridet(台湾/フランス人)[自然音をフィールド・レコーディングする台湾のアーティスト]
8 クリスティーナ・クビッチ Christina Kubisch(ドイツ)[電磁波(を使うアーティスト)]
9 ミキ・ユイ(ドイツ/日本)、ロルフ・ユリウス Rolf Julius(ドイツ)[短波]
10 角田俊也(日本)[電磁波]
【キュレーター&教育者】
ヤン・ヨン Yang Yeung(サウンドポケットのディレクター)[彼女のキュレーターとしてのものの見方は驚くべきものです! 彼女はアーティストに作品を作り出すための別の空間を探すのです。心を開いたパーソナリティは、アーティストとアートにより多くの空間をもたらし、それらは有機的に発展していきます]
【サウンド・アート・ライター】
ダグラス・カーン(オーストラリア)[『地球の音、地球のしるし:芸術の中のエネルギーと地球のマグニチュード』を刊行しています]
【アーティスト】
アレクサンダー・コールダー(アメリカ)[「モビール」を作る彫刻家で、彫刻作品のバランスと作品の動きにはインスパイアされました!]
【科学者】
1 ニコラ・テスラ
2 ファーストオープンエナジーズ(くだんのヴォルテックス・コイルはこの会社が発明したものです。彼らは量子物理学と代替電気を扱う仕事をしています]
【哲学者】
1 ティモシー・モートン(『ハイパーオブジェクツ』という本を書いています。この本は、オブジェクト志向の考え方とエコロジー研究の接点を探求しています)
Q4
フィオナさんのサウンド・アーティストとしての活動を教えてください。
A4
この質問には、私のバイオグラフィを参考のためにコピーしておきます。
フィオナ・リーは、1987年香港生まれ。2011年、香港城市大学クリエイティブメディア学部でクリティカル・インターメディア研究を専攻、文学士の学位を得る。作品は、インスタレーションとパフォーマンスに基礎を置いている。最近の活動では、日常で繰り返されるルーティンのある瞬間の感覚とそれに対する集中に発想を得て、それを冒険の場として探求中。聴取は彼女自身と世界との間の重要な関係性で、その間彼女はあらゆる動きが立てる音を感じている。彼女は自然の音を聴きとるのが大好きでありながら、街の中のノイズにもすっかり中毒している。彼女が異なる次元の音を作品の中に生かしているのはこのためだ。サウンド・パフォーマンス「喜び」と「聴いて、私の台湾旅行を」では音のテクスチュアは正反対で、同時に音がもっている力にも関心が払われている。サウンド・インスタレーション「流星の翼をつかまえて」では、電磁波を発見し、自然音と電子音を統合している。彼女は、芸術の創作とは自分自身の可能性を探求し受け入れることで生まれる進歩だと考えている。